21.窓を叩く雨 |
「ッ!!」 また、嫌な夢を見た。 こうして飛び起きるのは、何度目だろう。 「っはぁ、はぁ、はぁ・・・」 とにかく、呼吸を整える。 大量に汗をかいたせいで、服が肌に張り付く感覚が気持ち悪い。 でも・・・大丈夫、ここは私の部屋。 私は、ベッドの上。 あくまであれは『夢』、今私が見ているのは『現実の世界』。 「はぁ、は・・・ッ、ゲホッ、ゴホッ!」 途端に込み上げてくる、嘔吐感。 胃の中は空っぽのはずなのに、咳は止まらない。 ただ苦しくて、苦しくて・・・呼吸すらままならなかった。 「はぁっ・・・ど、うし、て・・・こ、んな・・・」 ようやく、咳が止まっても。 乾いた呟きさえ、途切れてしまう。 私の身体は、一体どうしてしまったのだろう。 幼い宇宙が安定する前も・・・確かに、同じようなことはあった。 それは、女王は宇宙と繋がる存在だからこそ。 宇宙を支えるため、身体に負担がかかるのは止むを得ないことだった。 しかし現在、宇宙は成長し、ほぼ安定している・・・。 ならば今、私の体調不良の原因は何処にある? この症状が続く、その理由は――― ぼんやりと、自分の両の手のひらを見つめる。 それは小刻みに震え、血色は悪く、昔より指は痩せ細ったような気がする。 ぽた。 冷たいものが、かさついた手を濡らす。 気付けば視界は、じわりとぼやけていた。 「・・・・・・ない、て、る」 無意識のうちに、涙を流していた。 しかも、それは止まることなく、頬を、手を濡らし続ける。 「なんで、わ・・・たし・・・」 わからない。 何故今の自分が、泣いているのか。 「なん、で・・・・・・うっ、うあぁぁぁぁぁあああ!!!!」 いつの間にか、私は頭を抱え、 一人泣き叫んでいた。 何が悲しかったのだろう。 何故それほどまでに悲しかったのだろう。 自分のこと? ―――自分が、何度も何度も、繰り返し悪夢を見ること。 ―――自分が、原因の分からない、体調不良に見舞われること。 ―――自分が、いつまでもこんなところにいて、女王らしいことが何一つできないこと。 エトワールのこと? ―――あの子が、私より格段に優れていること。 ―――あの子が、アリオスと同じ花を持っていたこと。 ―――あの子が、アリオスと一緒に居たこと。 アリオスのこと? ―――アリオスが、今私の傍に居ないこと。 ―――アリオスが、私にくれた花が今はもう無いこと。 ―――アリオスが、エトワールと一緒に居たこと。 ―――アリオスが、私よりもエトワールを大切にしているかもしれないこと。 ―――アリオスが、既に私の存在など忘れてしまっているかもしれないこと。 そのどれもが悲しかったのかも知れないし、 そのどれもが涙を流す理由ではなかったのかも知れない。 でも私は、ただ何かに突き動かされるように、 声を上げて泣くことしかできなかった。 声が枯れてしまっても。 涙が枯れてしまっても。 日が落ちて、窓の外が暗くなっても。 窓を叩く雨の音が、一層強くなっても。 ―2009.11.20― |