17.鋼の守護聖







「聖獣の宇宙の鋼のサクリアが、あなたを守護聖候補として選びました」




突然やってきた、『伝説のエトワール』と名乗る少女から、
告げられた、言葉。
私は、それを二つ返事で引き受けた。



(・・・何を迷うことが、あるだろう)



あれほど宇宙のため、尽くしてきた私が。
宇宙の守護聖となれる日が、来たというのに。



(しかし、この靄がかかったような胸の内は・・・)



遠い過去に、ふと思いを馳せた。
脳裏を過ぎる、彼女の姿。



そう・・・あれは、女王試験の頃―――



あの微笑みは今も色褪せることなく、瞬時によみがえる。
まるで、1冊の本の中でそのページだけを、
何度も何度も繰り返し開いていたかのように。





(・・・いや、私はもう決めたのだから・・・)









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聖獣の宇宙の聖地に着いて間もなく。
就任式の前の打ち合わせがあるらしく、
私は宮殿内の女王補佐官の執務室へと呼び出された。





「・・・失礼します」





「久し振り、エルンスト」
「ええ・・・貴方もお変わりなく」




女王補佐官レイチェルは、
しばらく会わなかった幼馴染みとの再会を、心底喜んでいるような・・・
それでいて、どこか期待外れだとでも言いたげな表情で、
ただ机の傍に、立っていた。




「・・・受けたんだ、守護聖のハナシ。断ってくれれば良かったのに」
「この宇宙の女王補佐官とは思えない発言ですね」
「別に。ワタシだってやりたくて補佐官やってるワケじゃないから」
「昔から相変わらずですね・・・本当に」
「そうやって、またワタシを子ども扱いする。
  エルンストだって変わってない。まだワタシを妹だとでも思ってるの?」




昔から天才と謳われたレイチェルも、
内面的な部分は、幼い頃から何も変わっていない。
・・・いや、幼少期から大人達に囲まれてきたからこそ、
『自分らしさ』を表現できる場所が、なかったのかもしれない。


兄妹のように育ってきた私に、わざとつっかかるような態度。
それは、レイチェルにとって少ない『自分らしさ』の表現方法なのだろう。




「いえ、貴方はもう立派な女王補佐官なのでしょう?
  これからは、貴方に頼るところもあるでしょう。
  ・・・宜しく、お願いします」
「そんなの、ゼンゼン嬉しくない・・・のに・・・」





「どうしてッ!?」


突然声を荒げるレイチェル。





「ココに来たって・・・あの子の傍にいたって、
  エルンストはツラいだけじゃない!!
  だってあの子は、アリオスしか見てない。
  あの子の心の中には、アリオスしかいないのに!
  ワ、ワタシ・・・ワタシは・・・」



「レイチェル・・・言ったはずです。私は、それでもいいのだと」
「ッ!!そ、んな、の・・・」






(―――そうだ、私はもう決めたのだ。
  彼女が誰を見つめていようと、私はただ彼女を見守り続けると)






「私がここに来た以上、聖獣の宇宙の守護聖として、
  陛下を精一杯支え、お守りするために全力を尽くします。
  貴方にも・・・女王補佐官としての働きを、期待しますよ」
「ナニソレ・・・早速守護聖のつもり?あの子のために?」
「あの方は、女王陛下です。そして、私は陛下にお仕えする守護聖。
  ならば、すべきことはひとつ。・・・違いますか?」
「・・・・・・・・・」




レイチェルは、先程までの口調が嘘だったかのように、
ただ俯いて、口をつぐんでしまう。




「・・・わかってる。エルンストはいつだって正しいよ。
  でもワタシだって、女王補佐官である前に、ニンゲンだから・・・
  そんなにカンタンに、割り切れるワケ、ない・・・」
「レイチェル・・・」







「・・・時間です。行きましょう」








そして、陛下の・・・彼女の待つ、謁見の間へと向かった―――














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―2009.05.08―





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