14.私だって・・・ |
「これ・・・お前に」 部屋に入るなり、アリオスは小さな花束を差し出した。 突然のプレゼントに、私は一瞬戸惑ってしまう。 「ど、どうしたのアリオス?今日って私の誕生日だったかしら?」 「・・・おい、寝惚けてないか?お前の誕生日はまだ先だ」 「もう、寝惚けてなんかいないわ!!」 勿論、自分で自分の誕生日を間違えるはずがない。 冗談のつもりで言ったのに、アリオスにはあっさりと否定されてしまった。 それなら、この花は一体何の為に・・・? 「前に、お前が今の宇宙の姿を見たいって言ってただろ? その時に約束した土産だ」 「あの約束・・・覚えていてくれたのね!」 つい先日、アリオスと交わした約束。 でもこんなに早く持ってきてくれるなんて・・・思ってもいなかった。 「本当に、私が貰ってもいいの・・・?」 「お前のために持ってきたんだ。お前が受け取らなくてどうする」 アリオスから花を貰えたことが、本当に、本当に嬉しくて。 そして、少し照れた様子のアリオスが、とても新鮮に見えて。 顔が、自然とほころんでしまう。 「嬉しい!早速ベッドサイドの花瓶に飾るわ。 そして・・・ずっとずっと、大切にする」 アリオスの手から受け取った花に、顔を寄せた。 「とてもいい香り・・・それに、少し変わった花ね。 聖地では見たことがないわ」 「この前行った、アンシャンヌ星系の惑星オフィアスにしか咲かない花らしい」 「惑星オフィアス・・・そうなの・・・」 既に、固有種が存在しているなんて・・・ 今現在の宇宙は、かなり発展しているらしい。 他の惑星にも、独自の進化を遂げたさまざまな固有種が存在するのだろう。 その一端を知ることができただけでも・・・ (・・・いえ、そんなことより今は、 アリオスがくれたこの花と、 アリオスと一緒に過ごせるこの幸せな時間に、浸っていたい・・・) 私は再び、小さな花束に顔をうずめた――― 花の香りを十分堪能し、手近にあった花瓶に花を飾り終えたところで、 私はアリオスに、ずっと考えていたことを打ち明ける。 「アリオス・・・もう一つ、お願いがあるの。 もうすぐ、エトワールからの育成定期報告が始まるわ。 私、今回からそれに参加しようと思うの」 定期報告は、週に1回、 王立研究院やエトワールからの育成進捗状況の報告を聞き、 各種のデータから今後の育成計画を立てる、とても重要なものだった。 「今までは、レイチェルが私の代役として参加していたわ。 でも今の私は、もう眠っていただけの女王じゃない。 これからは、この聖獣の宇宙を自分の目で見て、 自分の耳で聞いて・・・自分の手で、守っていきたいの」 ずっと、もどかしかった。 自分の支える宇宙でありながら、自分には何もできないことが。 でも、これからは・・・ 宇宙の女王として、私自身が一番に宇宙のことを知っておくべきだと思った。 そして、今後の宇宙の育成を導いていかなければならない・・・。 ―――私が、やらなければ。 「それにアリオスの立場から、 宇宙の現状や、今後の発展に対する意見を聞かせて欲しいの。 何よりアリオスがいてくれたら・・・心強いわ。 だから・・・私と一緒に参加してもらえないかしら?」 「・・・・・・それは・・・・・・」 アリオスの返事は、申し訳なさそうな、 そして歯切れの悪いものだった。 「お前がそう決めたなら、賛成する。 だが俺はこの後すぐ、別の惑星へ発つことになっているんだ」 「・・・ごめんなさい。私の方こそ我が儘を言って・・・」 やはり、私はアリオスに甘えてしまっている。 自分でも、考えている以上に。 (これは、私がやらなければならないことなのだから・・・) けれどアリオスが「賛成する」と言ってくれたことは、 少なからず、私を勇気付けてくれた。 「それじゃあ・・・気をつけてね、アリオス」 「お前も、しっかりやれよ。 ・・・報告の途中で居眠りしないように、な?」 「そ、そんなことしないわ!!もう・・・」 そしていつものように、 アリオスは背を向けて私の部屋を出て行った。 「私だって、この宇宙の女王なんだから・・・」 そして私は、報告の行われる執務室へと向かった。 ―2009.04.17― |