13.約束の花 |
「わかりました。それなら、こっちです」 エンジュに導かれるまま、森の奥へ進んでいった。 俺はただ、その数歩後ろを歩いていく。 しかし、奥へ行けば行くほど、 日の光すらまともに差し込まない、うっそうと茂る木々しか見えなくなる。 こんな森の奥に、一体何があるというのだろう? 「おい、まさかお前、道に迷って・・・」 ずんずんと先を歩いていたエンジュの足がピタリと止まり、 ゆっくりと振り向く。 ・・・明らかに不機嫌な表情を浮かべて。 「私を誰だと思ってるんですか? いいから、護衛の人は黙ってついてきてください!」 そしてまた、脇目も振らず歩いていく。 「はいはい・・・・・・ったく、我が侭なエトワールだな」 「何か言いました?」 「・・・別に」 案内してもらっている以上、 これ以上エンジュを不機嫌にさせるのは得策ではない。 俺は黙って、後ろをついていく。 ・・・そう、これはアンジェリークとの約束のために。 あいつはどんな土産なら喜ぶだろう。 最近また痩せたようだから、 食べ物・・・フルーツもいいかもしれない。 (何だって、アンジェリークが喜ぶなら・・・) そのためにも、しばらくは大人しくエンジュに従う方がいいだろう。 「確か、そろそろ・・・あっ!」 エンジュは迷うことなく、茂みの中へ潜り込んでいった。 俺もはぐれないよう、その後を追う。 茂みを抜けた瞬間、突然木々が消え、 あまりの眩しさに目を開けていられなくなる。 「着いた!ここです」 ゆっくりと顔を上げたそこは――― まさに一面、黄色い花の絨毯だった。 森を抜けたその先は、まばゆい光差す花畑。 しかも、強い風が吹けば、 視界は黄色い花吹雪で埋め尽くされてしまう。 明らかに、人の手の加えられていない・・・ いや、人の手が加わっていないからこそ、見られる風景。 「・・・・・・すごいな」 とにかく、息を呑むしかなかった。 「これが、この星の名物です!」 そう言って、エンジュは駆けていく。 嬉しくて嬉しくてたまらないといった様子で。 ・・・そういえば、こいつのはしゃぐ顔はあまり見たことがない。 『あなたは一人しかいない。替えなんてきかないんです!』 その時の真剣な表情とのギャップに、少し可笑しくなる。 当たり前かもしれないが、エンジュも年相応ってことか・・・ 「知ってますか、アリオスさん?」 物思いの世界から、急に現実に引き戻される。 ふと気付くと、 目の前には黄色い花を差し出すエンジュが立っていた。 「この花は、聖獣の宇宙でもここモラノ星系、 しかも惑星エンダールにしか咲かないんです」 「へぇ・・・お前、よく知ってるな」 「宇宙のことを把握しておくのは当然です! だって私は、この聖獣の宇宙のエトワールですから」 自慢げに胸を張るエンジュ。 よく見れば、確かに今まで見たことのない花弁をもち、 小さいながら多くの花をつける・・・不思議な種類のようだ。 この星特有の、というのは間違っていないようだ。 「お前も一応、エトワールなんだな」 「『一応』は余計です。『立派な』と言ってください! ・・・・・・な〜んて、 実は、王立研究院の植物学専門の方から伺っただけなんですけど」 「おい・・・ただの受け売りかよ」 「いいんです!だって、花がこんなに綺麗だから」 「確かに、な・・・」 (あいつはこういう花、喜びそうだな) 目をキラキラと輝かせて、「大切にする」とでも言いそうだ。 少しだけ、もらっていくことにした。 ―2009.04.10― |