12.痛み





「・・・チッ、まだ生き残りが居やがったか・・・」


苦々しく吐き捨てると、アリオスさんは改めて剣を構えた。




そして呼吸を整え、『異形』の懐に飛び込んでいく・・・





彼がこうした戦いに慣れていることは、一目でわかった。
剣さばき、身のこなし・・・それらにまったく無駄がない。
何故かそれが、とても美しく見えて。
私は無意識のうちに、アリオスさんの動きを目で追っていた。





キィィン、キィィンと、
金属と、鋭い爪や牙の激しくぶつかり合う音が響く。






そして―――






「・・・ッ!」



『異形』のもつ鋭い爪が、アリオスさんの手を掠める・・・!!






だが同時に、アリオスさんの剣は確実に相手の動きを封じていた。







「オォォォォォン・・・」






それは、最期に雄叫びのようなものをあげつつ、
キラキラとした緑色の光と共に、ゆっくりと消滅していった。


その光に、既視感を覚える。




(・・・これって、まさか・・・)




まさか、緑のサクリアを流現したときと、同じ・・・?




(そんなことより!)




剣を収め、息をついていたアリオスさんに駆け寄った。






「大丈夫ですか!?さっき、怪我を・・・?」




慌ててアリオスさんの手を取り、様子を見る。
やはり手の甲には、獣の爪痕と思しき傷があった。
予想していたより浅かったものの、
それでも出血しているのは事実。




「この程度の傷、放っておけば治る。
  それより、お前に怪我がなければ・・・」
「ダメです!」



私はポケットに入っていたハンカチを取り出すと、
それを、有無を言わせずアリオスさんの傷口に巻き、包帯代わりにした。



「だが、これではお前のハンカチが・・・」
「ハンカチなら、いくらだって買い替えればいい。
  けれどあなたは一人しかいない。替えなんてきかないんです!
  だからもっと・・・自分を大切にしてください。
  例えそれが、私を守るためであっても、
  私はあなたが傷つくところを、見たくないから」





それは、幼いころから思っていたこと。


『自分は守られてしかるべき存在だ』、と。


だからそのために、
私の代わりに傷つく者がいるのは当たり前だ、と。
幼い頃から、多くの人々に守られた生活をしていた私には、
それが生活習慣であり、当然の認識だった。




でも、今回だけは違う。



例え、私を守るためだとしても、
アリオスさんに傷ついてほしくないと、思った。
理由はわからないけれど、
私のために自分を犠牲にしてほしくなかった。










「とにかく、助けていただいてありがとうございました。
  もしアリオスさんがいなかったら、私は今頃・・・」
「気にするな。お前の護衛は、俺の仕事だ」







・・・・・・ツキン・・・・・・







「・・・じゃあせめて、何かお礼でもさせてください。
  例え仕事とはいえ、命を救われてお礼もなしじゃスッキリしません」
「スッキリって・・・お前、変わってるな」
「変わってて結構です。だから何か私にして欲しいこと、ありませんか?」
「して欲しいこと・・・俺がお前に、か?」



しばらく考え込んでいたアリオスさんは、
ふと何かを思いついたらしい。



「それなら、この星の名物ってヤツを教えてくれないか。
  いい土産にでもなりそうな物、お前なら知ってるんじゃないかと思ってな」
「・・・?なんだか不思議なお願いですけど・・・
  わかりました。それなら、こっちです」



私は泉のもっと先へと、アリオスさんを誘った。










『お前の護衛は、俺の仕事だ』







その時感じた痛みのことは、考えないようにして。














<<前へ                次へ>>


―2009.04.04―





「かみさまと、にんげんと」目次に戻ります

「なんちゃって創作部屋」に戻ります