11.異形のモノ |
あれから、すっかり恒例になってしまった、 流現へのアリオスさんの付き添い。 一応名目上は『護衛』だったが、 実際、護衛が必要になったことなど一度もない。 だから、私にとっては単なる『付き添い』。 レイチェル様は、余程私とアリオスさんを一緒にさせたいらしい。 けれど、ただ同じ時間を共に過ごすことに、何の意味があるのだろう? 私には理解できなかった。 何より、初めての同行してもらった時、 そのラウンジでのやりとり――― あれ以来、私は少し後悔をしていた。 何故あの時、自分はアリオスさんにあんなことを言ったのだろう。 私がこの宇宙へ来た本当の目的なんて、 誰かに話す必要はなかったはず、と。 だから、本当はあまり顔を合わせたくなかったのに・・・ 今回の目的地は、聖地からほど近い、 モラノ星系の惑星エンダール。 以前は、険しい岩肌ばかりが続いていたが、 サクリアの流現を続けるにつれ、 今では緑溢れる穏やかな星へと、成長していた。 そして今後は、農業の発展した豊かな姿へと変わっていくのだろう。 流現自体は、滞りなく終わった。 その後、いつものように地質・植物などのサンプルの採集を始める。 聖地の王立研究院へ持ち帰り、分析することで、 生態系のバランスや今現在のサクリア分布状況を、 より正確に把握するために。 「あとは私一人でできます。 アリオスさんは、アウローラ号で待っててください」 その場から逃げるように、アリオスさんから逃げるようにして、 私は森の中へと一人で進んでいく。 人里離れた、深い森の奥へ。 その先にある、泉を目指して。 毎回同じ地点のサンプルを採取するために、 私がいつもやってくる場所。 そこはいつものように、木漏れ日が揺れ、 穏やかな水のせせらぎが聞こえてくる。 まず泉の水を少量、小さなビンへ。 足元の土を、同じようなビンへ入れ、 日付と場所を記したラベルを貼り付ける。 さらに、木々の葉や実を、いくつかケースの中へ。 ここまでは、いつもと何も変わらない。 でもたった一つ、いつもと違っていた。 小鳥のさえずりが、今日は聞こえない・・・ 代わりに、木立ちの中からガサガサと何かが動く音が聞こえる。 (前に来た時は、 この付近に人が住んでいる様子はなかったはずだけど・・・) いや、この森に新たな動物が棲み着いたのかも知れない。 私は手に持った携帯端末に、その未知の動物の映像を捉えるため、 音のする方向へと、歩き出した。 すると突然、目の前を大きな影が横切る。 私は驚きのあまり、持っていた携帯端末を落として、 後ろへ倒れこんでしまう。 「ッ!?」 ・・・・・・な・・・な、に、これ・・・・・・ 私の目の前に躍り出たのは、 イヌのような、オオカミのような・・・ でもそれらのどれとも違う、気配をまとったモノ。 目は紅く輝き、毛色は植物と同じ深い緑色。 身体中に、蔓のようなものが巻きつき、 まるでそれぞれが意思を持っているかのように蠢いている。 それは、言うなれば『異形』。 「グルルゥゥゥゥ・・・」 その『異形』は唸り声と共に、 私に向かって鋭い牙を剥き出しながら、低い姿勢を取った。 (襲われる・・・!!) 抗う術を持たない私は、 迫り来る恐怖に、ただ目を閉じることしかできなかった。 あの人の名前を、心の中で叫びながら。 「大丈夫か、エンジュ!?」 次の瞬間、剣を構え『異形』と対峙していた、その人の名前を。 ―2009.03.28― |