10.安定のもたらすもの |
上半身を起こし、自分の右手のひらを見つめる。 数回、握ったり開いたりしてみた。 そして同じように、左手も。 「こんな感覚、久し振りだわ・・・」 最初の頃は、1週間近くも眠っていたこともあったというのに。 あの子が聖地に来てから、次第に眠りの周期が短くなってきていた。 現在では、かなり日常生活に近いと言ってもいい。 何より、自分が自分でないような浮遊感が、かなり薄らいできた。 少し倦怠感は残っているものの、それすら時間の問題だろう。 自分の身体を、自分のものとして動かせる・・・ 当たり前のようで、 それでいて私にはとても久し振りの感覚。 幼い宇宙も、どうやら少しずつ安定してきたらしい。 すべては、優秀なエトワールの働きによるもの。 王立研究員の予測より、 私の予想より、ずっと早い宇宙の安定化――― (あの子はやはり、私とは違う・・・) こうして、私がただベッドに横たわっていた間も、 精力的に宇宙を駆け巡り、サクリアを流現していたのだろう。 レイチェルと、私にはわからない宇宙の現状を話し合っていたのだろう。 (優秀な子、だから) 確かに、私がこうして起きていられるようになってきたのは、 間違いなく伝説のエトワールの働きのおかげだった。 あの子の持つ能力だからこそ、できたこと。 (・・・嬉しくないわけ、ないのに) けれど、それを素直には認められない自分がいた。 私を現実に戻したのは、コンコン、とドアをノックする音。 足音には気づかなかったけれど、 間違いない、この音は・・・ 「アリオスね、待っていたわ!さあ入って」 「最近・・・前のような怪我をすることがなくなったのね。 私、嬉しいわ」 「そういえば、最近は剣を使ったことがないな」 「アリオスの剣の腕は、一緒に旅をした私が一番よく知ってる。 それでも、やっぱり危ないことだけはしてほしくなかったから」 以前は残っていた傷も、もうどこにあったかわからない。 本当に、危険なことはしていないんだと、安心する。 「・・・そうだ!ねえ今度、アリオスの見た宇宙の話を聞かせて欲しいの」 「俺から見た、宇宙の話?」 「そう。私、この宇宙の女王なのに、 今現在の宇宙がどんな感じか、直接この目で見たことがないから・・・」 「・・・わかった。今度、土産でも持ってきてやるよ」 「本当?楽しみに待ってるから!」 アリオスは、何を持ってきてくれるのだろう? そして、宇宙は今どんな風に育っているのだろう? 私の、愛しい宇宙は・・・ ―2009.03.19― |