08.ワタシとあの子





どうして、ワタシは幸せになれないんだろう。




『同じ女王候補に選ばれた』、それしか共通点はないはずなのに。




ワタシの手にするはずのモノを、すべて奪っていく、あの子。









「ワタシとあの子、どちらが女王に相応しいか」


誰の目から見ても明らかだったハズ。
事実、ワタシは試験開始当初から、
順調に惑星を増やし、学芸館でも華々しい成績を残していた。



それに比べて、あの子の成績はワタシの足元にも及ばなくて。
こんな子と試験をする意味なんてないと、思っていたのに。




あまりに張り合いがなさ過ぎて、
少しあの子の面倒を見てあげるコトもあった。
最初はライバルという立場上戸惑っていたものの、


「レイチェルは、優しいのね」


そう言って、「ありがとう」と微笑むあの子。
ワタシの優しさだと勘違いして、ワタシを頼り、親しく話しかけてきたあの子。





それから、少し仲良くなった頃だった。

あの子が度々、夜にこっそり抜け出して、
王立研究院や図書館に通い詰めているコトを知ったのは。



ワタシが「天才」なら、あの子は「努力家」なのだと知ったのは。









そして女王試験の結果―――




あの子は女王となった。









確かにあの子とはそれなりに仲良くはなった。
けれど、仲の良さと女王は別問題。



(ワタシこそ、女王になるはずだったのに)



本当なら、女王補佐官の話を受けることすら嫌だった。


でも、仮にもワタシも女王候補。
補佐官であるワタシが逆に女王より優秀であることで、
実質的に宇宙を動かすことができる、真の「女王」になれると考えたから。



「レイチェルがいてくれるなら大丈夫!私たち、ずっと一緒にいようね」


(・・・違うわ。アンタなんかのためじゃない。
  ワタシはワタシの為に、女王補佐官を選んだんだから)




今は、女王補佐官として任を全うしていた。











もうひとつ―――エルンストのコト。



エルンストが、女王試験中ずっと・・・あの子を見ていたコトを、
あの子のことを想っていたコトを、ワタシは知っていた。


だって、ワタシはずっとエルンストを見ていたから。





ずっと好きだった。女王試験で出会う前からずっと。





ワタシとエルンストの出会いは、もう何年前だったろう。
幼馴染みとして、一緒に育ってきたワタシ達。
あの時からずっと、ワタシにはエルンストしか見えなかった。
「IQ200の天才美少女」として声をかけてくる人も多かったケド、
ワタシはそれらすべてに見向きもしなかった。



だってワタシには、エルンストがいたから。



でも・・・告げられなかった。
下手に告白して、今までの関係を壊してしまうよりはって、思ったから。
あのお堅いエルンストは、女の人のことなんか見向きもしなくて、
きっといつか、幼馴染みとしてワタシの元へ帰ってきてくれるって、
心の中で安心していたから。





だから、エルンストがあの子のことを好きだと気付いた時・・・





信じたくなくて、認めたくなくて。



それでも「エルンストが幸せになれるなら」と、
ワタシは自分の想いを閉じ込めた。
もう誰も、好きにならないように。
ワタシの好きな人は、永遠にエルンストだけであるように。





けれど。



あの子は、アリオスを選んだ。






アリオスは、私たちにとってみれば敵。
そんな相手を好きになるなんて、ホントどうかしてる。
向こうの宇宙を危険にさらしておいて、
今度はこちらの宇宙の女王の彼氏?信じられない。



でもあの子は、幸せそうな笑顔でこう話していた。


「私はね、アリオスを信じてる。
  何より私、アリオスのことが好きなの。
  きっとレイチェルならわかってくれる・・・そうでしょう?」


(・・・アンタはワタシのコト、何も知らないクセに)


ワタシの覚悟はなんだったんだろう。
幸せになれないとわかっているのに、
エルンストはどうしてこんな相手を想い続けているんだろう。










壊してしまいたかった。

あの子の持っているモノを。
ワタシから、奪っていったモノを。


壊されて奪われて、そしてワタシと同じ思いをすればいいのに。










でもあの子は仮にも女王陛下。
補佐官であるワタシが、自ら手を下すわけにはいかない。


だからワタシは、アリオスに宇宙での『仕事』をさせた。
時には命の危険すらある、成功率の低い『仕事』・・・
それでもアリオスは、涼しい顔をしてこなしてみせる。



(何か、何か他に手段は・・・)





そんなときだった。
「伝説のエトワール」エンジュが現れたのは。




エンジュはとても優秀で、ワタシと対等に話のできる相手だった。
どのジャンルの話を振っても、ワタシの欲しい答えを返してくれた。


しかも名家のお嬢様と聞いていたのに、謙虚に振舞い、
ワタシのことを「レイチェル様」と慕ってくれる・・・
まさに妹のような存在だった。




そのエンジュが、ある日アリオスの話題を持ち出した。
正直、アリオスの話題はあまり好きじゃない。
あの子の好きな人のことなんて。


けれど、エンジュは言った。



「不思議な人だったから、気になっていただけなんです」



どうもエンジュは、アリオスに興味があるらしい。
本人は自覚していないようだったケド、ワタシにはわかる。


(エンジュは、アリオスに恋をしている)


ならばいっそ、アリオスとエンジュがくっついてしまえば、
あの子の幸せを壊すことができる。
アリオスを失ったあの子は、どんなカオをするだろう。
自分が手にしていた大切なモノを、
他人に奪われ、壊され・・・どんな思いをするだろう?




早速、ワタシはアリオスに、次の『仕事』をさせることにした。















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―2009.02.21―





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