07.興味アリ? |
アリオスさんの手当てをした翌日――― (あの人・・・一体誰だったんだろう・・・) 宮殿の職員は、ほぼ全員顔と名前が一致する。 なのに、あの人の顔だけは見たことがなかった。 それに『アリオス』という名すら・・・ 何故あの人は、怪我をしていたんだろう。 何故あの人は、『サカキ』の名を知らなかったんだろう。 何故私は、あの見ず知らずの人の手当てをしたんだろう。 何故私は、あの人に対してあんな物言いができたんだろう。 何故私はあの人と同じ時間を過ごして、心地良いと感じたんだろう。 (わからない・・・もう一度会えばわかるの?) でも宮殿内にいたのなら、きっとこの聖地の関係者のはず。 それならば、とレイチェル様に思い切って尋ねることにした。 「あの、レイチェル様・・・ちょっと、お尋ねしたいことが」 「ん?何かな、エンジュ?何でも聞いてヨ」 「昨日・・・中庭で、不思議な方にお会いしたんです。 銀の髪に、左右の目の色が違って・・・ 確か、名前はアリオスさん、と」 「!!」 一瞬、レイチェル様の顔が強張るのを、私は見逃さなかった。 「ご、ごめんなさい!!失礼なことをお尋ねしてしまって・・・」 「・・・そう、アリオスに、会ったの・・・」 触れてはいけない話題だったのだろうか。 明らかにレイチェル様の態度がおかしかった。 「それでエンジュは・・・アリオスと話を?」 「え、えぇ、少し。それに怪我をされていたので、応急処置をしました」 「エンジュってば、ホント優しいなぁ。 でも珍しい・・・あのアリオスが、大人しく手当てを受けるなんて」 「大人しく、といいますか・・・最初は無愛想な方でした。 それから、いろいろと失礼なことを言われましたし。 最後は名前だけ名乗って、どこかへ行ってしまいました」 「ますます珍しい。初対面の人と話しただけじゃなく、名前まで名乗るなんて!」 最初、レイチェル様は、 アリオスさんを嫌っているのかと思ったけど・・・違うのだろうか? 「カレの仕事はね、この聖獣の宇宙のパトロールってトコ。 エンジュみたいに、この宇宙のいろんな惑星を飛び回ってるんだ。 そして、各地の状況やサクリアバランスを報告してもらっているの」 (状況報告だけで、あんな怪我を・・・?) 違和感を感じたものの、 今はレイチェル様の手前、あまり深くは聞かない方が良い気がした。 「近々彼のことも紹介しようと思ってたんだケド、 まさかもう知り合いだったなんて!・・・コレって、運命の出会いとか?」 「う、んめい?まっ、まさか、そんなことは・・・」 すると突然、レイチェル様はニヤリと笑って顔を近づけてきた。 「あれあれ、もしかしてエンジュって・・・アリオスに興味アリ?」 「えっ!?い、いえ、そんな・・・」 「エンリョしない!ね、エンジュはワタシの妹みたいなものだからさ、 姉として力になってあげたいの・・・ダメかな?」 「いえ、本当に不思議な人だったから、気になっていただけなんです」 別に彼に好意を抱いているとか、そういうわけではなかった。 ただ私は・・・わからないことを『知りたい』と思っていただけだから。 「どこかこの宇宙の人にはない雰囲気があって、 しかも初対面の人にあんなこと言われたの、初めてで。 それに、私の名前のことも知らなくて・・・」 「そっか。エンジュって、あの有名なサカキ家のお嬢様だもんね。ワタシだって知ってるよ! ・・・まぁ、アイツはあの子のコト以外興味ないから仕方ないか・・・」 「・・・レイチェル様、何か・・・?」 「っと、コッチの話。ゴメンゴメン。 ウン!じゃあ早速、アリオスにはエンジュの育成に同行してもらって、 ついでに状況報告もしてもらうことにしよう!!」 「れっ、レイチェル様、そんな急に・・・」 「何言ってるのエンジュ!善は急げ、さぁさぁアリオスに連絡しなくちゃ!!」 「あ!それから、コレ♪」 レイチェル様から、折り畳まれた小さなメモが差し出された。 「? これは・・・」 「アリオスのメールアドレス。 携帯端末なんて使ってないだろうからさ、連絡してあげてヨ。 きっと喜んでくれるし、エンジュの株もアップできちゃうんだから!」 (レイチェル様は何か勘違いをしている・・・) まぁ、そのおかげでまたあの人に会う機会ができたのだけれど。 でも・・・何故だろう。 面と向かっていた時は、あんなにすらすら言葉が出てきたはず。 そして今は、たった一文。ただの挨拶。ただのメールなのに。 こんなに時間をかけたのは、初めてだった。 ―2009.02.13― |