06.美貌の悪魔 |
俺が初めて女王補佐官殿に会ったのは、いつだろう。 「ふぅん・・・アンタが噂のアリオス、ね」 初対面の相手に、やたらと値踏みするような目で見られたことは、 はっきりと覚えている。 「あのコから聞いてるヨ。この宇宙で働きたいんだって? 今更、前世の罪滅ぼしでもする気?」 「前世?何故それを・・・」 「そうそう・・・剣の腕も立つんでショ、『美貌の悪魔』サン?」 「ッ、その名は!!」 まさか、その名を今ここで聞こうとは。 こいつ・・・どこまで俺のことを知っている・・・? 「調べさせてもらったヨ。仮にも女王陛下の恋人のコトだもの。 万一ワタシ達に・・・あのコに剣を向けられたらたまらないからね」 溜め息混じりに肩をすくめた女王補佐官殿は、一人で勝手に話し始めた。 「この幼い宇宙で、今あのコに倒れられでもしたら宇宙は即崩壊。 ワタシ達全員宇宙と運命を共にするってワケ。 ・・・考えるだけでもサイアクじゃない?」 ・・・・・・こいつが、本当に・・・? 「それに知ってると思うケド、 あっちの宇宙の陛下方も、アンタのこと危険人物だと思ってるんだから。 ・・・まぁ、アンタのしてきたコトを考えれば当然だけど」 こいつが・・・本当に女王補佐官なのか? この女王補佐官が・・・本当にあいつの言っていた親友・・・? 「それにアンタ、今の自分の立場理解して言ってる? アンタを自分の恋人として側に置くことで、 あのコの女王としての立場が危うくなってるってコト。 そうそう、ちなみにワタシもアンタのこと信頼してないし、するつもりもナシ」 ―――『大丈夫、レイチェルなら私たちのこと、わかってくれてるから』 「で、そんなあのコの立場を安定させ、周囲を納得させるためには、 アンタのそれなりの働きが必要ってワケ。 それに何か働かせておかないと、ワタシがあの子に怒られちゃう」 ―――『だってレイチェルは、私の大切な親友だもの』 アンジェリークの言葉が、心に虚しく響いた。 確かに、俺に対する感情はよくないものだとは思っていた。 だがこれほどまでに、女王補佐官殿に嫌われていようとは。 いや、これは俺へというよりむしろ・・・あいつに対する、憎しみ・・・? 「あ、それから仕事のコトだけど・・・コレ」 宇宙のサクリアバランスが記されているのだろうか。 現在の宇宙の状態が、様々な数値と共に図解された書類を渡された。 「今この聖獣の宇宙では、未熟さゆえサクリアがとても不安定な状態にある。 不安定なサクリアは、生態系に悪影響を及ぼすってワケ。 そこでアンタには、その暴走したサクリアの生み出す、生態系の歪みを正してもらうヨ。 アンタが働けば宇宙の平和は保たれるし、女王陛下の立場も安泰!」 「もちろん、引き受けてくれるでしょ・・・『異眼の剣士』様?」 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 ギシャァァァァァァアアア!!! 「ハッ、なかなかやるな・・・だが、残るはお前だけだ」 こうして、歪みから生まれた魔物と退治している時、 何故か・・・決まってあいつの言葉を思い出す。 『アリオスの嘘吐き。腕・・・傷痕が残ってる』 『あなたに危ないことをして欲しくないの』 『もっと・・・自分を大切にすると、約束して?』 (・・・俺がどんな『仕事』をしているか、あいつが知ったらどう思うだろうな) 泣きながら、俺を「嘘吐き」と罵るだろうか。 それとも、あの『親友』の女王補佐官殿に詰め寄るだろうか。 今度はいつ、聖地へ戻ることができるだろう。 次はいつ、アンジェリークと・・・ (いや、今は俺があいつのためにできることを・・・) そしてまた、俺は剣を振るった。 ―2009.02.07― |