05.守るべきもの





「待っていたわ、アリオス・・・!!」





こうして、起きた状態のアンジェリークと話をするのは、しばらくぶりだ。

俺が聖地にいることも稀だったし、
何より今のアンジェリークは、何日も眠っていることが多かった。




「お前・・・また少し、痩せたんじゃないか?」
「そう、かしら・・・?自分じゃあんまりわからないわ」


こんな細い両肩に、宇宙というとてつもない責任を背負って・・・
未熟な宇宙を支えるため、肉体的にも精神的にも相当な負担がかかっているはずだ。

それでもなお、気丈に振る舞うアンジェリーク。
むしろ俺がいることで、無理をさせているのではとすら思ってしまう。




「お前は・・・強いな」
「そんなことない。アリオスの方こそ強いわ」
「確かに、お前みたいな女王陛下のお世話ができるくらいだからな」
「・・・それってどういう意味?」
「言った通りの意味だ」
「もう、アリオスってば・・・知らない!」


頬を膨らませてそっぽを向く姿は、
女王というより、むしろ年相応の少女らしいと言うべきか。






「そんなことより・・・ねえ、また危険なことをしているの?」
「いや、そうでもない」
「・・・・・・嘘吐き」


「アリオスの嘘吐き。腕・・・傷痕が残ってる」


どうもこういったことには聡いようだ。
いくら取り繕ったところで、アンジェリークには通じない。



「どうしてレイチェルは、アリオスにこんな事を・・・」
「仕方ないさ。俺のしてきたことは、決して許されることではない。
  本来なら、この聖地にいることすら・・・」


許されはしないだろう。
俺が聖地に留まっていられるのは、すべて『アンジェリーク女王陛下』のおかげだ。





「そんなことない!」




だがその話をすると決まって、アンジェリークは哀しそうな瞳で俺の袖を掴む。


「そんなことない・・・私はアリオスに、ここにいて欲しいと思っているから」
「・・・・・・悪かった」


その瞳に射抜かれると、俺は何も言えなくなる。





「ごめんなさい、アリオス・・・私から、レイチェルにちゃんと言っておくわ。
  『絶対に、危険な任務にはつかせないように』って」
「あぁ・・・サンキュ、助かる」


(まぁ、あの女王補佐官殿が聞くとは思えないが・・・)


女王補佐官殿は、俺のことをよく思っていない。
俺がこの部屋に入ることすら、しぶしぶ了承しているといったところだ。
アンジェリークが眠っている間は、
何か向こうから用件でもない限り宮殿にすら近づけない。




「アリオス・・・私ね、あなたに危ないことをして欲しくないの。
  それが例え、私の我が儘であっても・・・
  あなたを傷つけてまで宇宙を守らなければならないのなら、私はあなたを・・・」
「・・・いいんだ。これは俺自身が決めたこと。
  お前のその思いだけで、十分だ」
「そう・・・わかったわ。
  それなら、もっと・・・自分を大切にすると、約束して?」



やはり、未熟な宇宙を一人で支えるという負荷が、
アンジェリークを精神的に弱くしてしまっているらしい。


そっと差し出された小指に、自分の指を絡めた。
これで少しでも、お前を安心させられるなら―――





「あぁ・・・約束する」
「信じているわ、アリオス」






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アンジェリークがまた眠ったのを確認し、静かにドアを閉める。




部屋から出た廊下の先には、まるで俺を監視するかのように、
女王補佐官殿が立っていた。



「イイご身分だよね。アンタみたいな罪人が宮殿に、
  しかも堂々と女王陛下の私室にまで入るコトができてさ。
  彼女に見捨てられないよう、陰ながら努力してるってワケ?」
「・・・・・・」
「そうそう、あとコレ・・・次の『仕事』。今度はサビュート星系へ行ってもらうよ。
  聖地から遠く離れてるし、しばらくはココにも来られない。・・・ホント残念」


さも同情するわ、と言いたげな表情で、
次の『仕事』とやらの書類を突きつけられる。





そして、誰にも聞かれぬよう・・・甘い笑みを浮かべ、耳元で囁く。




「わかってるでしょ?もし失敗したら、あの子のコト・・・」
「あぁ・・・」
「・・・・・・フン、顔も見たくない。早くこの宮殿から出て行って!!」



半ばヒステリックに投げかけられた言葉に背を向け、
宮殿をあとにする。





「・・・わかっているさ」





アンジェリークを守るためなら、俺は何だって―――














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―2009.01.31―





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