03.初めての願い |
私には、最初から「すべて」があった。 人目を惹きつける容姿。 一度見聞きしたことを瞬時に理解できる頭脳。 王立研究員ですら舌を巻く膨大な知識。 周囲を従えさせ、かしずかせる地位。 社会で、大人達の中で生きていくための処世術。 それら全てを兼ね備えた存在、エンジュ・サカキ。 宇宙でも有数の財閥サカキ家に、長女として生まれた私。 どんなに忙しくても、私を一番に可愛がってくださるお父様。 まるでおとぎ話のお姫様のような、誰よりも美しいお母様。 お父様の跡継ぎとして将来を有望視される、優しいお兄様。 お城と見紛うばかりの自宅で、何不自由なく過ごす毎日。 誰もが羨む、絵に描いたような幸せな家庭。 これ以上、何を望むものがあるだろう? ―――成長途中にある聖獣の宇宙の「伝説のエトワール」として、聖地に来て欲しい――― その話が来たときも、私にしてみれば当然だと思ったし、 完璧にこなしてみせる自信があった。 退屈な「学校」という環境から抜け出せることに、ささやかな喜びすら感じたものだ。 「すごいわエンジュ!あなた聖地へ行くんですって?」 「当然よ。だってエンジュだもの、私達とは違うわ」 「女王陛下のいらっしゃる聖地・・・どんなに素晴らしいところなのかしら」 「あなたなら立派にお役目も果たせるわ。 エンジュは私達の・・・いえ、この宇宙に生きる者全ての誇りよ」 「ねぇエンジュ。もし聖地に行っても、私達のこと、忘れないでいて」 「勿論よ。みんなのことは忘れない・・・だって私達、親友でしょう?」 ・・・『親友』?誰が誰の『親友』だというの? 私に親友なんていない。欲しいと思ったこともない。 何もしなくても、周囲には人が集まってくる。 結局彼らの目当ては私の家柄であり、能力であり、容姿だったから。 教師ですら、私に媚びへつらうだけだったから。 何も望まなくても、私にはすべてがある。 だから、心の底から「欲しい」と思ったものなど、 今までもなかったし、これからも一切ない。 ・・・・・・はずだったのに。 私はあの日、初めて「欲しい」という強く激しい願いを知った。 ―2009.01.14― |