ジェイドさんの提案もあって、
私たちは陽だまり邸に程近い天使の花束に来ていた。


こんなことになる前は・・・二人でよく来た、思い出の場所。





「懐かしいね、この空気・・・
  それに、俺の隣には君がいる。
  あぁ・・・俺はこんなに幸せでいいのかな?」

「もちろんです!
  それに、これからはもっともっと幸せになるんです。
  私と、一緒に・・・・・・」

「そう、だね・・・
  一緒にいるだけで、俺たちは幸せ・・・なんだ」

「あ!私ジェイドさんのためにバスケットを持ってきたんですよ。
  一緒に、食べませんか?」





花を摘んだり、寝転がって雲を眺めたり。
何をするときも二人寄り添って、手を繋いで。



離れたら、その瞬間にこの幸せが終わってしまいそうで。



私はジェイドさんを・・・
ジェイドさんは私を、離さなかった。






でも、これが最後だと・・・
どこかで、わかっていたのかもしれない―――


















―――次の日の夜。
再び、レインに呼ばれた。


そして、告げられた言葉。





「最期かも、しれない」・・・・・・と。







ニクスさんも、ヒュウガさんも気を使ってくれて・・・
私とジェイドさんの二人だけにしてくれた。











「・・・ジェイド、さん・・・?」

「・・・あぁ・・・アンジェリーク、だね・・・

  でも、どうしたんだろう・・・?
  君に、触れたくても、腕が、上がらない、んだ・・・」



私は、ジェイドさんの腕をとって、頬を寄せた。



「大丈夫ですよ。ほら・・・
  ジェイドさんは、ちゃんと私に触れています」

「・・・・・・うん、温かい・・・
  俺は、君に触れている、んだね・・・

  けれど・・・どうして、君の頬は、濡れているんだい・・・?
  また俺は、君を・・・泣かせてしまった、のかな・・・?」

「ジェイド、さん・・・っ!!」





泣かないつもりだったのに。

堪えられるわけ、なかった。




「ジェイドさん、お願い・・・
  どこにも行かないで・・・
  ずっと、一緒にいてくれるって・・・
  私の側にいてくれるって、約束したのに!!
  ・・・・・・どうして?
  どうして私たちは一緒にいられないの!?」


「泣か、ないで、アンジェリーク・・・
  俺は君に、いつも、笑っていて、ほしいんだ・・・」




無理矢理作った笑顔でも。



「そう・・・その笑顔、だよ、アンジェリーク・・・
  君の、笑顔を見るだけで、俺は・・・すごく幸せ、なんだ・・・」




あなたに見てもらえるのなら、いくらだって微笑んでみせるのに。






どうして私は無力なんだろう。
どうしてジェイドさんを救えないんだろう。


私たちは、どうして一緒にいられないんだろう。










「その、笑顔を、どうか忘れないで・・・

  ・・・いつ、までも、愛してる・・・


  俺の、アンジェ・・・」







そして、ゆっくりと瞳を閉じた―――








「私も、ジェイドさんを、愛して、います・・・ずっと」




















あれから、どれだけ経っただろう。




私は、動かなくなったあの人の側から離れなかった。

みんなが私を気遣う言葉すら、何の意味も持たなかった。




最後に出かけた、あの日・・・
ジェイドさんからもらった、忘れな草。

もう、とうの昔に枯れてしまった。



「私を忘れないで」―――その花言葉に、
一体どれだけの意味があるのだろう。






忘れられるはずなんて、ないのに。








・・・そして、私はある決心をした。




「ねぇ・・・いるのでしょう、エルヴィン・・・?
  一つだけ・・・お願いがあるの・・・」



「・・・私の女王陛下・・・

  他ならぬ貴女の願いとあれば、
  私の力の及ぶ限り、叶えよう・・・」








あの人が眠る場所を。
あの人の思い出が残る花を。

あの人が私に触れた、手の温かさを。
あの人が私にくれた、愛の言葉を。






あの人の、すべてを忘れない。



ただそれだけのために、
私は女王として悠久の時を生きることを選択した。





少しでも長い時を生きることで、
忘れることを拒み続けられると・・・

死ぬこと、つまり忘れることから逃れられると・・・


そう、思ったから。









そして、今日も。




私は、あの人を忘れないためだけに、生きている。








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初めて書いたジェイアンが、悲しいお話になってしまって大変申し訳なく・・・

ゲーム中ジェイドを見ていてずっと思っていたことが、
「実は、ジェイドこそ一番不安定な存在なのではないか」ということです。

確認されている限り、たった一体のジャスパー・ドール。
今まで、長い長い時を生きてきたのかもしれない。
・・・でも、これからは?
例え身体に何らかの問題が発生したとしても、
前例がない以上対応しきれないかもしれない。
それが、現代において解明されていない技術なら、なおさら・・・
と、考えてしまうのです。
もしかしたら、明日突然動かなくなってしまうかも知れない。
常にそんな不安定さを抱えているのではないか、と。


でもだからこそ、ジェイドには生きている「今」を大切に、
アンジェリークと幸せになってほしい、と思います。
つまり、ジェイドとアンジェの幸せなお話が書きたいのです。
・・・つ、次こそは・・・!!



―2006.9.1―


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