「こうすると、波の音が聞こえてくるの」

「お願い・・・側に、いて・・・」

「私は、あなたに止めを刺すことなんて・・・できない」

「もう誰とも、戦わない!
  何があっても、私はあなたを選ぶから・・・」


目の前で、くるくると表情を変える栗色の髪の少女。
まるで走馬灯のように、少女との思い出が浮かぶ。




そう、これは・・・思い出だ。


つい最近のような、それでいてずっと昔の出来事ような。
あやふやで、簡単に壊れてしまいそうな・・・愛しい思い出。



「お願い・・・アリオス!!」


突然天空(そら)から差し伸べられた、少女の手。


―――俺はこの手を・・・知っている?

この手を見失ってはいけない、
離したくないと手を伸ばした瞬間。



温かいものに、包まれた。
その温かさが妙に懐かしくて、俺は静かに瞳を閉じる。


眠りの波間へ揺蕩う時に似ていると、そう思った―――















次に目を開けると、そこは一面野原だった。
小川が流れているらしく、かすかにせせらぎの音も聞こえてくる。

見上げれば、頭上から差し込む木漏れ日。
どうやら大きな木の根元に座り込んでいるらしい。



「ここは・・・どこだ?俺は、一体・・・」


自分が誰なのか。ここはどこで、なぜここにいるのか。
・・・・・・何も、わからない。
無理に思い出そうとすると、かえって気分が悪くなってくる。
思い出してはいけないと、誰かが歯止めを掛けているように。


その中でもただ、あの少女・・・
俺を「アリオス」と呼ぶ少女のことが、頭から離れなかった。



―――あれは、幻だったのか?



両手を広げ、俺を温かく包むようなその手。
やわらかく微笑み、すべてを許し慈しむ青緑色の瞳。



―――そう、あれは・・・



「ア、ンジェ、リーク」



無意識に口にした言葉に、はっと驚く。


『アンジェリーク』とは、一体誰だろう。
あの少女の名前が、『アンジェリーク』なのか?


だがそれは『天使』という意味だったと・・・なぜか知っていた。







探さなければならないと、思った。


『アンジェリーク』という少女が、俺のことを知っているかもしれない。
何も思い出せないこの状況だからこそ・・・

だからこそ『アンジェリーク』という手がかりを、探したかった。



そして俺は、大樹に背を向け、歩き出す。







ふと、大樹を振り返ったとき。



あの少女と同じ髪と瞳をもつ少女が、
大樹の根元に佇む幻を見たような・・・そんな気がした。








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完璧に自己満足ですね・・・ハハハ・・・(乾いた笑い)
えっと・・・以前「天レク」をコンプリートした時から、
ずっとアリオスとコレットちゃんが、頭から離れなくなってしまいまして・・・
・・・そして今に至るわけです。
「言われなくてもわかるよ!」という感じですが、舞台はアルカディアの約束の地です。
約束の地を思い浮かべながら、読んでいただければ幸いですー。

・・・って、後書きで言ってどうするんでしょうねぇ。



―2006.4.17―


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