息が、止まると、思った。 そこに居るはずのない後姿に。 一度も忘れたことのない、手の届かなかったあの後姿に。 あんなに焦がれた相手を、間違えるはずがない。 「・・・・・・おい。」 懐かしさや、嬉しさ、恐怖、愛しさ・・・ 言葉では表現しきれない、複雑な感情の波の渦に、 私はただ、立ち尽くすしかできなかった。 相手に話しかけられていることすら、気づかないくらいに。 「おい!!」 「きゃっ!?」 いつの間にか、私の目の前には心配そうに覗き込む顔があった。 「なんだよ、そんな声出して。俺の方が驚くだろ」 「ご、ごめんなさい・・・」 「・・・そう素直に謝るなって。変な奴だな」 金色と緑色の瞳。銀色の髪。 どうして運命は、 こんな再会を用意しているんだろう。 『約束の地』という地名さえ、恨めしく思った。 「そんなことより・・・あんた、どこかで会ったことねぇか? どこかで話したとか、なんかの知り合いとか・・・そういうの」 「え・・・・・・?」 私のことを、覚えている? 嬉しい・・・けれど同時に、怖い。 あなたが覚えているのは私?それとも・・・ 「・・・悪い。俺、今ちょっと記憶が曖昧になっててさ。 いろんなことが、はっきりと思い出せねぇんだ。 ただ、その瞳と唇には、絶対見覚えがある。 名前・・・そう、名前は・・・」 お願い、間違えないで。私の名前は――― 「アンジェリーク・コレットよ」 無意識のうちに、きっぱりと言い放つように答えていた。 「チッ、どうして言うんだよ・・・ せっかく思い出そうとしてるってのに」 「っ・・・ごめん、なさい・・・」 「だからそう謝んなって。 そうか・・・アンジェリーク、か。 確かそれは『天使』って意味・・・だったよな?」 「えっ・・・えぇ、そうよ・・・」 愛した人一人救えなくて、何が『天使』なんだろうと。 自分の名前を呪ったことすらあった。 でも、あなたに『天使』と呼んでもらえるのなら、それもいいと思った。 「なぁ・・・もしかしてお前、俺の名前を知ってるんじゃないか?」 突然の質問に、戸惑う。 どうして?どうして・・・ どうして私があなたの名前を知っていると・・・わかるの? 「もし俺の名を知っているのなら、呼んでくれないか?頼む・・・」 懇願するような、瞳。 「あなたの名前は・・・」 ・・・・・・怖かった。 本当のことを言ってしまったら、また私の目の前から居なくなってしまいそうで。 「アリオス、よ」 あの頃何度も口にした、私の・・・ただ一人愛する人の名前。 「・・・・・・そうか、俺の名前は『アリオス』なのか」 「そう、あなたの名前は、アリオス」 「アリオス、アリオス・・・・・・ダメだ、何も思い出せねぇ。 俺は一体、何者なんだ?お前はなぜ、俺の名前を知っている? ・・・いや、これは俺が自分で思い出さなきゃいけねぇよな。 なぁ、もしよかったら・・・俺が自分で思い出せるように、 ときどき顔を見せてくれないか・・・?」 「わかった。きっとまた、会いに来るわ」 「よし、じゃあ頼んだぜ・・・アンジェリーク」 そう言い残して、ひらひらを手を振りながら行ってしまった。 でも、このままでもいいと心のどこかで思った。 例え私のことを思い出してくれなくても、 「あの記憶」を、甦らせたくなかった。 「あの女性(ひと)」のことを、思い出して欲しくなかった。 だって、ねぇアリオス・・・? 私たちは、この「理想郷」から始まるのだから。 ======================================= |
いやぁ、人生何があるかわかりませんね。 もともと、このお話は一話完結だったはずなのですが、 トロワのイベントを見ていたら無性に書きたくなってしまいまして・・・今に至ります。 以前、某様の創作を読んで以来、 コレットちゃんの心のどこかに、エリスへの嫉妬みたいな感情が、 深く根差しているんじゃないかと考えてしまいます。 私の知らないアリオス(レヴィアス)を知っている女性。 アリオスの心には、まだエリスへの想いがあるんじゃないか、とか。 本当は、私を通してエリスを見ているんじゃないか、とか。 「あの女性のことは忘れて、私を、私だけを見て欲しい」――― コレットちゃんは、いつもそんな思いを隠しているのかなぁ、と。 そうこう考えているうちに、ますますアリコレの深みにはまっていくのでした・・・ ・・・ちなみに。 このお話はイベントをかなり脚色しているので、2回分のイベントを1回にまとめていたり。 滅茶苦茶で申し訳ないです・・・ |