「お、お待ちください、天真殿!神子様はまだ・・・」


止める藤姫の声、そして誰かが近づいてくる足音。


「あかね、出かけるぞ」
「・・・・・・ふぇ?あー、おはよう天真くん。今日は早いねぇ・・・」
「おいおい、まだ寝ぼけてんのかよ。まったく・・・
  こんなにいい天気なんだ、今日くらい休みにして外に出かけようぜ」
「寝ぼけてないもん!それに今日はねー、四神の呪詛を祓ってねー・・・」



「・・・どこが寝ぼけてないんだか。ほら、とっとと行くぞ!」


そう言うと、天真くんは私の腕をつかんで強引に歩き出した。
「え!?ちょ、ちょっと待ってよ、天真くんっ!!」






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「・・・ここまで来ればいいか」
「はぁっ、はぁっ・・・もうっ、急に、飛び出す、んだから・・・」

天真くんに連れられてやってきたのは船岡山だった。
あまりに突然の出来事で、しかも起きた直後にわけもわからず歩かされて、
さっきまでぼんやりしていた頭も今ではもうはっきりしていたけど。


「それに、藤姫に何も言わずに出てきちゃった・・・」
「心配すんなって。俺が一緒なんだし、暗くなる前に屋敷に帰ればいいだろ」
「うーん、それってあんまりよくないと思うなぁ」



「それよりどうしたの?突然船岡山に来るなんて・・・」
私は一番気になっていたことを聞いてみることにした。
こんな朝早くから、しかも強引にここまで連れてこられたのにはきっと何かわけがあるはず・・・


なのに。


「おい、見てみろよ」



なのに、天真くんはまるで私の質問を聞いていなかったかのようなことを言う。


「そうじゃなくてっ!どうして・・・」
「まぁ、とにかく見てみろって」




どうにも話を聞いてくれなさそうで、私はしぶしぶ天真くんの隣に立ってみる・・・












するとそこには、眼下に大きく広がる京の街並み。
さっきまで自分がいたとは思えない、
まるで別世界へ来てしまったような・・・不思議な感覚だった。




「・・・うわぁ・・・ここからだと京が一望できるんだね」
「いい眺めだろ?行き詰ったり悩んだりしたときは、ここに来るのが一番だな」


そういえば、前に天真くんは船岡山によく来るって聞いたっけ。
確かにこの眺めはいい気分転換になりそうだった。
朝の冷たく透き通った空気を胸いっぱいに吸うと、身体の中からすっきりしてくるみたい。





「・・・なぁ、お前悩んでることでもあるんじゃねぇか?」




「・・・・・・え?」

あまりに突然の質問で、一瞬反応が遅れてしまった。


「き、急にどうしたの?」
「・・・やっぱり自分じゃわかってねぇな」




「・・・どういう、こと?」

天真くんの言うことがさっぱりわからなくて、質問ばかりになってしまう。


「お前、最近元気なかっただろ?
  昨日出かけた時だって、無理していつものように振る舞ってたみたいだけどよ・・・

  ま、俺の目を誤魔化せないなんてまだまだだな」








・・・どうしてだろう、天真くんには全部お見通しみたい。






「・・・・・・天真くん、わかっちゃったんだ?」
「当たり前だろ?お前ってホントわかりやすい性格してるぜ」



「今日は俺が聞いてやるからさ、何でも言ってみろよ」


そう言って、天真くんは自然と私から言葉を引き出してしまう。







「ふぅ・・・やっぱり天真くんには敵わないなぁ」




少しずつ、少しずつ。
私の胸につかえていた思いが、言葉になっていく。





「実はね、ちょっと考えてたんだ・・・
  『私には一体何ができるのか』って。

  四方のお札が手に入ってから、協力技だって使えるようになって、
  みんなの力はどんどん強くなってるよね。
  なのに私は物忌みの日になれば誰かがいなくちゃ安心して過ごせないし、
  みんなみたいに強い技が使えるわけでもない・・・


  守られるだけじゃない、私にもみんなを守る力があったらいいのにな、って・・・」




自分の無力感と、早く元の世界に帰りたいという焦りに押しつぶされそうになっていた・・・







でも、天真くんは明るく笑う。


「なんだ、そんなことかよ?」

その笑顔を見ていると、なぜだろう、ふっと安心感が湧いてくる。


「いいか、そもそも俺たちが四方の札を手に入れられたのは、
  お前がちゃんと自分の足で京を歩いて情報収集をしたからだぜ?
  それに、八葉ってのは神子を守るものなんだ。
  物忌みだろうとなんだろうと、とにかく何かあったら俺を呼べ。



  何より・・・俺が強くなれたのは、お前のおかげなんだからな」




「えっ・・・?」


「ほ、ほら・・・お前って神子のくせになんか危なっかしいからな。
  いつどこで何をやりだすかわかんねぇだろ?」






「みんなで一緒に帰るんだ。・・・もちろん、蘭も一緒にな」

私を見つめる、真剣な眼差し。


天真くんもきっと妹さんのことで苦しんでいるはずなのに・・・
そんな中でも私を気遣って話を聞いてくれたことがうれしかった。




「・・・うん、明日からもよろしくね、天真くん!」






次は、私が天真くんの力になってあげたいと、

心の底から・・・今、思うよ。









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天真くんはきっと、口では上手く言えないけど、
あかねちゃんに元気がないときは、無理矢理にでも外に連れ出して、
すっと悩みとかを聞き出しちゃうんじゃないかなぁ、と思います。
そんなちょっと荒っぽいように見える彼の優しさが、
私は、とっても好きなのです・・・!!!


妄想とかいろいろ入りすぎですみません。
しかもこれ、相当前にほとんど出来上がっていたものなんですよね。
アップするのが遅くなってしまってさらにすみません・・・


―2005.8.9―


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