「・・・はぁっ!・・・たぁっ!!」


見えない憎しみを、切り刻むように。
まるで何かから逃れるように。


ひたすらに、剣を振り続けていた。




普通に高校に通って、毎日を過ごしていたあの日常からは想像もできなかった、
戦場という世界。
常に「生」と「死」が隣り合わせに在る世界。
だからこそ、「生」と「死」を最も強く感じる世界。



―――大切な人たちを守りたい―――



その思いで身につけた剣技は、誰かを傷つける。
私が剣を振るえば、守られる命と終わる命があるということ。







怖かった。


戦場に慣れていく自分が。
例え慣れていかなければいけないと、理解していても。
自分が選択した運命を、その思いを貫くためには必要なことだったとしても。












「神子、やっぱりここにいたね」

聞きなれた声に剣を下ろし振り向くと、白龍がいた。


「・・・白龍・・・どうしたの?」
「譲が、ご飯ができたから神子を呼んできてって。
  今日は神子の好きなものを作ったと言っていたよ」


言われてみれば、周囲はもうすでに暗くなりはじめ、肌寒さを感じるほどだった。
日の落ちる早さが、季節の移り変わりを感じさせる。

「もうそんな時間だったんだ・・・私もすぐ行くよ、白龍」



剣を収め、白龍と並んで薄暗くなった庭を歩いていく。


「でも・・・ずいぶん寒くなってきたよね」
「うん、もうすぐ新たな季節が廻ってくる。
  神子の力で世界の理があるべき姿に戻っている証だよ」

「・・・そうだね・・・」



それは、平家との決着をつける日が近づいているということ。
次が最後の戦いになる・・・そう考えると、いろいろな思いが頭をよぎる。




『本当に、これでよかったの?』



答えの出ない問いが、ただ繰り返される。







「きっと次の戦いが終わったら・・・・・・っくしゅん!」
「神子っ、大丈夫?」

冷たい風に吹かれながらを振るっていたせいで、体はすっかり冷え切ってしまっていた。
突然くしゃみをした私を、白龍が心配そうに見つめる。


「あ、うん・・・ちょっと体が冷えちゃったみたい。でも大丈夫だよ」
「・・・寒いときはね、こうすると温かくなるよ」



するとさっきまで隣を歩いていた白龍が、目を閉じてぐっと顔を近付けてくる。


(えぇっ!!ちょ、ちょっと!!!)


狼狽える私にはお構いなしに白龍の顔が近づいてきて・・・









そして、額と額が触れ合う。




「ほら、温かいよ」

「う、うん・・・そう、だね・・・」




確かに、さっきよりずっと温かくはなったけど、
でもこんなに近くに白龍の顔があるなんて・・・


白龍なりの優しさだとわかっていても、変に意識してしまう。




「どうしたの、神子?顔が赤くなってる・・・」
「え、な、なんでもないよ、白龍!
  ホント、大丈夫だから・・・」
「大丈夫じゃない。神子の気が乱れてる」
「わ、私はなんともないからっ!ほ、ほら、譲くんが待ってるから早く行こう!!」

白龍の手を取って、皆の待つ家の中へと急ぐ。





ぎゅっと握り締めた手は、とても温かくて。
まるで「大丈夫だよ」と、白龍が私を守ってくれているような気さえしてくる。






ねえ白龍・・・もう少しだけ、この温もりに甘えさせて・・・?









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あんまり恋愛ちっくではありませんが・・・
寒い日が続きますので(←冬だから当たり前です)、
温かくなるようなお話がいいな〜と書いてみました。
しかしまさか白龍のお話を書いてしまうとは・・・ある意味ビックリな文章ですね・・・。

最初で最後にならなければよいのですが。


―2005.12.24―



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