戦の近づく夜には、必ず笛を吹いていた。
それが、一体何のためかはわからなかったが、
笛を奏でたい・・・ただその思いが私を動かしていた。


暗い闇の中を、月明かりを頼りに陣から抜け出す。
ふと見上げれば、柔らかな光を放ちながら浮かぶ月。


「今宵は、満月だったのだな・・・」



満ちた月・・・神子の名だ。




神子は、私が怨霊の身であることを知ってなお、
私を仲間として、八葉として信頼してくれていた。


その優しさと、包み込むような温かさ。

神子という光は、ただその存在だけで私を浄化する・・・



まるで、月の光に洗われるかのように。



いや、神子は月そのものかもしれない。
どれだけ焦がれても、消して手の届かぬ・・・

穢れた身でありながら、
このような想いを抱くなど間違いだと理解しているはず。


だがいつからだろうか、『神子の側にいられたら』と願うようになったのは・・・











かすかな足音に顔を上げると、そこには神子がいた。



「神子、いつからそこに?」
「ご、ごめんなさい!敦盛さん。
  あの・・・・・・お邪魔、してしまいましたか?」
「いや、そうではないのだが・・・
  こんな夜更けに、なぜここへ?」

神子はもう、明日に備え休んでいると聞いていたのだが・・・


「敦盛さんの笛の音が、聞こえたんです」
「すまない・・・神子を起こしてしまったのだな」
「違うんです!敦盛さんの笛はすごく、きれいで・・・
  そして月の光のように、澄んでいていて。
  聞いていたら、なぜか急に敦盛さんに会いたくなったんです」

「そ、そうか・・・」


神子が会いに来てくれた、その事実だけでうれしかった。


もしかしたら、音に自分の想いを託すために、
私は夜毎笛を奏でていたのかもしれない。

その想いが、少しでも神子に届いたのか・・・



「もう一度、聞かせてもらえませんか?」

神子の笑顔を見ていると、不思議と私の心は軽くなる。
そして、ふっと微笑む自分がいることに気がつく。


これも神子の力なのだろうな。



「ああ、神子が望むのなら」



神子が望むのならば、いつでも。
何度でも、何度でもこの笛を奏でよう。
それが、私の・・・





私の、望みだから。









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なんか熊野のイベントそのまんまのような文章ですが。
最近、自分でも意外なキャラクターのものばかりを、
ついつい書いているような気がします。
ちなみに、その熊野のイベントの敦盛くんの笑顔とか照れた顔とか、
「おやすみなさい」の言葉とか、
実は相当好きだったりします。

重症だよアンタ・・・


―2005.8.17―



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