「譲くん、何読んでるの?」


振り向くとそこには、先輩の笑顔があった。

気がつくと、もう教室に残っていたのは俺一人だけだったらしい。
「職員室に用事がある」という先輩を、本を読みながら待っていたつもりだったのに、
いつの間にか本の世界に入り込んでしまっていた。


「あ、先輩・・・日直の仕事は終わったんですか?」
「ちゃんと日誌も先生に提出してきました!
それで・・・どんな本、読んでたの?」
「これですか?」



先輩に本のタイトルを見せようとしたそのとき、
本にはさんでおいたしおりが、するりと抜け落ちてしまった・・・

「それは・・・」


床に落ちたしおりを、先輩の細い指が捉える。


「あっ、ありがとうございます、先輩」
「いえいえ〜、でもこれ・・・四葉のクローバー、だよね?」


先輩の手の中にあるのは、小さな四葉のクローバーの入ったしおりだった。


「そうですよ。これは俺にとって特別なしおりなんです。



幼い頃の、思い出の四葉のクローバーですから・・・」




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まだ小学校に入る前のころだったか・・・


兄さんと先輩、そして俺の3人でいつも一緒に遊んでいたものだったが、
その日は兄さんの言う『とっておきの場所』に、先輩と2人で連れて行ってもらった。


そこは、まるで絨毯のように一面にクローバーの広がる草原だった。



「のぞみ!ゆずる!だれがさきによつばのクローバーみつけられるか、きょうそうだっ!」
「まさおみくんにはゼッタイまけないもんね!」


でも俺は先輩と一緒に探したくて・・・

「ぼくはのぞみちゃんのおてつだい、してあげる」
「ホント?ゆずるくん、ありがとうっ!」


先輩の喜ぶ顔が見たくて、小さな手で一生懸命四葉のクローバーを探していた。



すると、その思いが通じたのか・・・

小さいながらも四つの葉をつけたクローバーを見つけることができた。



「・・・あっ、あった・・・」

「あーっ!!ほんもの!ほんもののよつばのクローバーだよっ!!」
「ゆずる、すげーな!おまえがいちばんだ」


俺は先輩の喜ぶ顔が見られただけで十分だったから・・・

「はい、これ・・・のぞみちゃんのだよ」
「ううん、やっぱりゆずるくんにあげる!」
「えっ・・・いいの、のぞみちゃん?」

「だってゆずるくんがみつけたんだもん。
  それに、よつばのクローバーをもってると『いいこと』があるんだって!
  だからゆずるくんにもらってほしいの。
  ゆずるくんにもいいこと、あるといいね」


「うんっ、のぞみちゃん、ぼくこのクローバーたいせつにするね!」




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「う〜ん・・・そんなこともあったようななかったような」
「だから、このクローバーは俺の大切なお守りなんですよ」

「じゃあ譲くんには・・・いいことあったのかな?」



俺にとっての幸運は・・・



あなたの側にいられること。

あなたと同じものを見て、同じ想いを抱き、同じ思い出を共有できること。



でもそれを口に出すのは少し恥ずかしくて。


「もちろん、とっておきのいいことが・・・ありましたよ。
・・・さぁ、そろそろ帰りましょう、先輩」


誤魔化したように答えてしまったけれど。



本当は・・・




あなたという幸運を、俺は決して手放したりはしない。







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お題に初挑戦してみましたー!!が、
初挑戦でこんな文章でよかったんでしょうか・・・(不安)
でもテーマをもとに創作をするって、今までとはかなり違う感じがしますね。
実はある程度テーマが決まっていないと、文章が書けないんですよね・・・
まだまだほかのお題にも挑戦したいですー♪


―2005.3.5―



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