きみに話したいこと、たくさんあったはずなのに。
なんでだろ・・・ひとつも思い出せないや。

せっかく日野ちゃんが「一緒に帰ろう」って誘ってくれたのに、
おれは、どうしていいのかわからなくなって。



それはきっと―――



「・・・い?火原先輩っ!!」
「へ?あ、あれ、どうしたの?」
「それはこっちのセリフです!
今日の先輩、どこか変ですよ?さっきから黙ったままで・・・」
「そっ、そんなことないよ!うん。ホラ、おれはいつもと一緒だよ?」



おれが、いつもと違う理由。


それはきっと・・・今日月森くんと日野ちゃんが話しているのを、見てしまったから。

立ち聞きするつもりなんか、これっぽっちもなかったのに、
日野ちゃんの楽しそうな笑顔を見たら、もう何も考えられなくなって。


それに、あの月森くんが日野ちゃんのこと「香穂子」って・・・


まるで月森くんとの違いを見せつけられたような。
たったそれだけのことで、こんなにも動揺している自分がいた。

おれはいつまでたっても「日野ちゃん」だったから。

恥ずかしくて、どうしても呼べなかったその名前を、月森くんが呼ぶ。
それが、こんなにもおれを混乱させるなんて。


言わずに後悔するくらいなら、
今思い切って、言ってみようか・・・なんて。
でも、どうしてもきっかけがつかめない。
突然名前を呼ぶだけじゃ、きっと不自然だし・・・


そんな堂々巡りだけが繰り返されてたけど。




「先輩が元気じゃないと、私だって気になります!
  私でよければ、悩み事でも何でも聞きます。だから・・・」

「日野ちゃん・・・」


そのとき、あんなに晴れていた空から急に大粒の雨が降ってきた。
今日の天気予報は、ずっと晴れだったはず・・・
もちろん、2人の手には傘なんてあるはずもなくて。


迷っているうちに、雨はどんどん強くなっていく。

こうなったら、走るしかない・・・よね。




「行こう、香穂ちゃんっ!!」

そういって差し出した手に、小さくて・・・温かい手が重なる。


「・・・はいっ、和樹先輩」





自然に口に出せたその名前を噛み締めながら、幸せを噛み締めながら。


雨上がりの晴れた空にかかる虹を、一緒に見ようね。









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拍手用にと書いた火原先輩のセリフから思いついた話です!

・・・・・・・・・が。
実は恋愛イベントをかなり無視してます。
本来なら、呼び名は「日野ちゃん」から「香穂子ちゃん」になり、
「香穂ちゃん」か「香穂子」になるんですよね。
話の中で「香穂ちゃん」になっているのは、
個人的な趣味以外の何物でもありません。(←言っちゃった!)


―2005.5.24―



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