「レイン、お願い。あなたは生きて・・・
  そして平和になった世界を、見てほしい、の・・・」



オレの覚えている、最後の言葉。







そして、あいつは、いなくなった。








「オレが必ず、一緒に生きられる道を、
  お前が犠牲にならなくてもいい方法を見つけてみせる。

  だから、待っていてくれ・・・アンジェリーク」




結局、そんなものは夢物語だった。




だけど、一番辛かったのは・・・


お前がオレとの約束を守らなかったこと。

オレの言葉を信じてくれなかったことだって、知ってるのか・・・?

















あいつがいなくなった今も、
陽だまり邸のアンジェリークの部屋だけはそのままにしてあった。

ニクスのヤツに言わせれば「彼女がいつ戻ってきてもいいように」だそうだ。





トントン、と主のいない部屋のドアをノックする。
いつだってあいつは、ノックをしないと怒っていたっけ。




―――『もうレインってば!またノックしなかったでしょう?』


まるで、時間が止まったかのような錯覚。


―――『今ね、レインから貰った論文集を読んでいたのよ』


穏やかな陽の当たる机の上には、
以前、オレが手渡した一冊の本が置かれていた。


―――『・・・でも、内容が難しすぎて、全然わからないの』


表紙のざらついた感触だけは、変わっていないのに。


―――『ねぇ、レイン。
            いつか・・・一緒に読んでほしいの。
            だって、レインのことをもっともっと知りたいから・・・いいでしょう?』


手にとってページをめくる。
必死に内容を理解しようとしたのか、
所々に辞書で調べたような書き込みがあった。


―――『ふふっ、約束・・・忘れないでね、レイン』


あいつらしい字だな、なんて思っていると、
偶然開いたページに何かが挟んであった。

しおりにしては大きすぎる「それ」は、手紙のようだ。


宛て名も、差出人もない封筒。


誰かに出すつもりだったのだろうか。
確認しようと開けてみると、中身は「レインへ」と書かれた一枚の便箋。




     『   レインへ



       まずは、ごめんなさい。

       あなたの言葉を、約束を守らなかったこと。



       決して、レインの言葉を信じていなかったわけではないの。

       けれど・・・私に出来ることがあるなら、力になりたかった。

       昔の私が、お父様とお母様を亡くしたように、

       もう、誰も失いたくなかったの。


       せっかく出会えた大切なあなたを、失いたくなかった。

       今の私にとって、あなたを失うことほど怖いものはないわ。

       それはきっと何もない、からっぽの世界だから。




       もうひとつは、ありがとう。

       私と出会ってくれて。私を好きになってくれてありがとう。

       私、レインに出会えて、幸せだった。

       レインも、同じ思いでいてくれたらうれしいな。





       私の生きられなかった世界を、幸せに生きてね。


       ・・・・・・・・・約束、よ


                                                                           アンジェリーク   』











「それが・・・お前の、望みだって・・・
  こんなにも残酷な世界が、お前の望みだって、そう言うのか・・・?」





お前にとって、オレのいない世界がからっぽであるように。

オレにとって、お前のいない世界はこんなにもからっぽなのに。





それでも「生きろ」と・・・そう言うのか、アンジェリーク?











「・・・お前の望み、叶えてやるよ」




オレが「生きている」ことが望みなら、これからも生きていく。
きっと、オレにとって世界はからっぽのままだけど。



いつか、この生が終わりを告げるとき。
お前のもとへ行けたとき、オレの世界は満たされるのだろう。


そのときが来るまで・・・待っていてくれ、アンジェリーク。




「今度は、待っていてくれるんだろう・・・?」






・・・・・・約束、だからな。










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あぁなぜネオアンの創作はシリアスなのか。
しかもレインって・・・!!
私の一番好きなのはジェイドだった気がするのですが。
でも、初めてレインのバッドエンディングを見たときは衝撃的でしたね。
どうして、どうしてこんな結果にってとにかく悲しくて・・・
個人的には、今回のような「生き残りエンディング」よりも、
「ふたつのお星様エンディング」の方が好きです。
このエンディングを見ていると、
ある意味ハッピーエンディングなのかもしれないとすら思ってしまいます。
星になったとしても、二人はいつまでも一緒にいられるので・・・
別の捉え方をすれば、聖地恋愛エンディングに近いように感じます。
そんなエンディング語りのオチでした。すみません・・・


―2006.10.25―


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