「おじゃましま〜す!」



勝手知ったる有川家。
いつものように、望美はダイニングキッチンへとやってきた。



「先輩、来てたんですね」
「やっぱり譲くん!ここにいると思ったんだ。
  玄関でもう、すっごく甘くていいにおいがしたの。
  ・・・これは、もしかして・・・」
「ええ、チョコレートです」



譲の手元には、チョコレートトリュフ。

しかもホワイトチョコを使用したもの、ナッツのコーティングがなされたもの、
粉砂糖をまぶしたもの、などなど・・・
まるで、お店で売っているかのような出来映えに、思わず望美の頬が緩む。



「すご〜い!譲くん・・・これ、全部手作り、だよね?」
「勿論です。今日はバレンタインですからね。
  本を参考にはしましたが、他にも俺なりに手を加えてみました」
「・・・あ、味見、してみたいな〜・・・なんて」
「先輩、実は期待して来たんじゃないんですか?」
「あ、あはははは・・・・・・・・・バレちゃった?」
「まったく、仕方のない人だ・・・」




2月14日。
毎年譲は、チョコレートのお菓子を作っていた。
そして毎年その恩恵にあずかっていた望美は、
今年のチョコレートに胸を膨らませて、有川家にやって来たのだった。




「さあどうぞ、先輩。是非感想を聞かせてください」
「やった!じゃあ早速・・・いただきま〜す」




望美は、粉砂糖をまぶしたトリュフを一つ、口に運んだ。





「・・・どうですか?」
「・・・・・・・・・」
「?先輩、一体どうしたんで・・・」
「美味しいっ!!」
「・・・そ、そうですか・・・」
「もうすっごく美味しい!今まで食べたトリュフの中でも最高!!」
「ありがとうございます、先輩」



望美の幸せそうな笑顔に、譲の顔もほころぶ。



「それにこれ、ちょっとアルコールが入ってる?」
「はい、アレンジしてウイスキーを少しだけ加えました」
「・・・うん、なんか『大人の味』って感じがする!」
「他にもまだあります。よかったら食べてみてください」
「ホント?うわぁ、次はどれにしよう・・・」



どれも魅力的で、迷ってしまう。
望美の指は、様々なトリュフの上を行ったり来たりしていた。

しかし、その指が突然止まる。



「譲くん・・・あのね、すごく贅沢なことなんだけど・・・
  今ここでたくさん食べちゃうのも、勿体ない気がする、の・・・」
「先輩・・・それなら、これを」



譲は食器棚の引き出しから、可愛らしい袋を取り出した。



「よかったら、自宅に持ち帰ってゆっくり食べてください。
  全部、差し上げますから」
「ぜっ、全部!?だって、これ・・・」
「これは先輩の分です。実はまだ全員分作ってあって、冷蔵庫に保管してあるんです。
  兄さんに見つかったら、全部食べられてしまいますから」
「確かに・・・『俺が味見してやる』とか言って、持って行っちゃいそう。
  あれ、そういえばみんなは・・・外出中?」



家の中がやけに静かなことに、望美はようやく気付いた。
このダイニングキッチン以外・・・物音一つしない。



「はい。夕食の食材の買出しに。
  ああ、兄さんだけは部屋で寝ています。昨夜、夜更かししたとかで」
「・・・なんか、将臣くんらしいね」
「ですから先輩、遠慮しないで受け取ってください。
  試作品も入っているので、他の人より量は少し多めになっています。
  ・・・くれぐれも、内緒にしておいてください」
「譲くん・・・ありがとう!大切に食べるよ」









先輩の喜ぶ顔が見られただけで十分だ―――


譲は、心の底からそう思っていた。
そもそも譲の料理の腕だって、

『たった一人の相手に「美味しい」と言ってもらいたい』

その思いだけで、ここまで上達したようなものだった。
勿論今回のトリュフだって、望美のために作ったもの。
手元にあったのは、実はすべて望美の分のチョコレート。
つまり、他の八葉や白龍の分までは作っていなかったのだ。



(さあ、全員が帰ってくる前に、すべて片付けてしまわないと・・・)








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「譲、ただいま!」


白龍が、真っ先にぱたぱたと駆け込んでくる。


「ちゃんとおつかいの紙を見て、買ってきたよ」
「・・・おいおい、なんでこのオレが買い物袋を・・・」
「君も男の子ですからね。これくらいはできるでしょう?」
「九郎に持たせればいいだろ?」
「いや、これも修行の一環だ。お前も持つべきだろう」
「みんな力が有り余ってるんだね〜!若いって、ホント羨ましいよ」
「敦盛・・・風邪をひかぬよう、手洗いを忘れてはならない」
「はい、リズ先生」



八葉たちが、おのおのダイニングへやってくる。
すると最初にやってきた白龍が、何かに気付いた。



「譲・・・かすかだけど、いいにおいがする」
「い、いや・・・気のせいじゃないか?」
「ううん、このにおいは・・・確か『チョコレート』だったね。
  前に神子が教えてくれた、茶色くて、甘いお菓子のにおいだ」


(は、白龍・・・鋭い・・・!!)


「ねえ譲、譲はチョコレートを・・・」
「あああああ白龍!その話はまた後で・・・
  九郎さん、その袋はこちらにお願いします。
  ヒノエ、冷蔵庫に食材を入れるのを手伝ってくれ」



そう言い残して、譲はキッチンへと姿を消してしまう。



「チョコレート・・・私も食べたかった・・・」







続いて、起きたばかりの将臣もダイニングへとやってきた。




「ふぁぁぁ・・・おはよう、譲」
「今更『おはよう』はないだろ、兄さん」
「・・・・・ん?譲、何かいいにおいが・・・」







その日の夕食のデザートは、蜂蜜プリンならぬチョコレートプリンだった。










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突発的に作ってしまったバレンタイン創作その弐。
今度は遙か3、しかも運命の迷宮から書いてみました。
いやぁ、遙か創作ってとても久しぶりに書いた気がします。
最近は遙かのゲームからも遠ざかっていたもので・・・
あ、ちなみに作中のトリュフは、自宅にあったチョコ作りの本を参考にしました。
自分ではあまり作ったことがな(以下略)

考えてみると、実は以前にも遙か3でバレンタイン創作を書いていましたね。
どれだけ譲くんと望美ちゃんをバレンタインでくっつけたいんだ・・・!!



―2009.02.16―


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