現代から古井戸を通じて異世界の「京」に龍神の神子として召喚されて早数ヶ月。 八葉のみんなと鬼や怨霊と戦い、四方の札を集め、封印の力を手に入れ、 四神の解放を行ってきた。 だけど、これまで休まずにいたこと、ランやアクラムたちの鬼のことなど、 今までの精神的、体力的な疲労、そして物忌みまでも重なって、 私は体調を崩してしまっていた。 「あ〜、風邪ひくのなんていつぶりだろう・・・。なんか、最近体調悪かったけどさ・・・。」 「神子さま、そんな風に起き上がっていらっしゃると治るものも治らなくなりますわ。 今日はお役目のことはお気になさらず、ゆっくりお休みください。」 「うん、そうする。迷惑かけてごめんね、藤姫。」 「お役目より、神子さまのお体の方がだいじですわ。では失礼致します。」 ・・・・・・・・・・・・・ 次に目が覚めた時にはもう外は暗く、月も昇り始めていた。 そして人の気配・・・ 「んっ、そこに居るの誰?藤姫?」 「おや、お目覚めかい?姫君。・・・ああ、まだ熱は高いみたいだね。」 「と、友雅さん!?」 そう、そこで、私の額に手をあてていたのは八葉の一人で、 私の・・・である友雅さんだった。 「ずいぶん長い時間寝てたみたいだね。かわいい寝顔を見せてもらったよ。」 「なっ、なんで友雅さんがここに居るんですか?今日は手紙も出してないのに!」 「ほら、そんな急に起き上がらない。 藤姫から神子殿が体調を崩したと聞いてね。今日が神子殿の物忌みと重なっているから、 手の空いている八葉が、交代で傍にいたんだよ。」 「そうだったんですか。迷惑かけてごめんなさい。」 「誰も迷惑だなんて思っていないさ。むしろみんなが心配しているよ。 頼久なんか「神子殿にもしものことがあったら」の勢いだし。 まあ、みんなに私の神子殿の寝顔を見られたのはちょっと妬けるけどね。」 「私のって・・・///」 「おや、違うのかい? ・・・さあ、あんまりしゃべりすぎると神子殿を疲れさせてしまうかな。 では私も失礼させてもらうよ。 藤姫への報告もあるし、かなり熱が高かったから他の八葉達も安心させないとね。 では神子殿、ゆっくりおやすみ。」 そういって友雅さんは部屋を出て行こうとしたのだけれど、 「違うのかい?」と言ったときの顔が余りにさびしそうだったので、 思わず、手を伸ばして服をつかんでしまった。 「どうしたんだい?神子殿。」 「あっ、え、えっと・・・。」 なにも考えずに手を伸ばしてしまったので、思わず口篭もってしまった。 そんな私を見ても友雅さんは私の思ったことがわかっていないのか、からかうような口調で、 「もしかして、私が傍にいないと眠れないのかい?姫君?」とからかってきた。 「なっ・・・///なに言ってるんですか〜。そんなこと言ってないじゃないですか。」 「神子殿の目がそう言っているように見えたんだが・・・。」 「・・・」 「ふふっ、冗談だよ。そんな目をしないでくれないか。」 「それは友雅さんが・・・!」 「神子殿は私の心配をしてくれたのだろう?」 「えっ・・・」 今の今まで冗談を言っていたのがうそのような真剣な口調でそんなことを言うから 一瞬反応が遅れてしまった。 その際に腕をひかれ、気がつくと私は友雅さんの暖かい腕の中にいた。 「と、友雅さん!」 と、思わず慌てると耳元で囁くように 「目を見ていれば分かるよ。神子殿は気づいていないかもしれないが、 君は表情で、特に目で全てを語っているからね。」と言われた。 「そ、そんなに顔に出てます?」 「まあ、そんな風に表情がくるくる変わるような所も好きなんだけどね。 さあ、もうほんとに寝ないとまた明日も寝込む羽目になるよ。 まだ熱もひいていないんだし。 神子殿が寝付くまでは傍にいるから。」 そう言って、友雅さんは腕の中から私を解放すると布団の中に戻した。 外を見ると月の位置も高い所に変化していた。 大分長い時間しゃべっていたみたいだった。 ・・・・・・・・・ そして十数分後。 静かな寝息が響く部屋の中・・・。 「ゆっくりおやすみ、神子殿。 明日は元気になってまた笑顔を見せておくれ。 私は君の笑顔が気に入っているのだから。」 そんな耳元での囁く声と眠り姫の額への口付け。 この睦言も見ていたのは空に浮かんだ月だけ。 ====================================== |