京から帰ってきて初めてのバレンタイン。
2月になってすぐ、どこのお店でもチョコレートを見かけるようになった。
今までだって将臣くんにも譲くんにもチョコレートはあげていたけど、

でも、今年はいつもとは違う。

譲くんと過ごす、初めての特別なバレンタインデー。
京ではいつも譲くんに作ってもらっていたから、今度は私が何かご馳走してあげられたら・・・

そこで、私は譲くんにちょっとした手料理を作ってあげることにした。






―――そして、バレンタイン当日―――



「おじゃましまーす!」
「どうぞ上がってください、先輩」

昔はよく遊びに来ていたけど、久しぶりに訪れる有川家はやっぱり懐かしい。
3人で遊んだ楽しい思い出が、ふと頭をよぎる。

「今日はまだ父さんも母さんも帰ってきていませんから・・・台所は自由に使ってくださいね」
「はーい!!今日は腕によりをかけて作るから、楽しみにしててね、譲くん!」


学校帰りにスーパーへ寄って買ってきた材料を置くと、早速準備にとりかかった。




「その・・・先輩の手つきは、見ていてなんだか危なっかしくて」
「もう、またそんなこと言う・・・」


結局、譲くんに手伝ってもらってなんとか完成できた。
何度も家で練習してきたつもりだったんだけど、
いつも料理をしている譲くんから見れば、まだまだ初心者ってことだろうなぁ。
「ここはこうするといい」なんてアドバイスを聞いているうちに、
いつの間にか譲くんに作ってもらっていたところもあった。




「それで・・・ど、どう?おいしい・・・かな?」

「もちろん!先輩の作ったものなら何でもおいしいですよ」


それは・・・譲くんに手伝ってもらって作ったから、なんて思うとちょっと悲しい。
でも料理って作る側になって初めてその大変さが身にしみてわかる。
京では毎日、譲くんに作ってもらっていたからあんまり考えたことがなかったけど。


・・・やっぱり、私ももっと料理の勉強しておこうっと・・・





「ごちそうさまでした。本当においしかったです、先輩」
「お粗末さまでしたー。・・・じゃあ私、後片付けてしてくるね!」
「あ、片付けなら俺が・・・」
「いいの!!もともと台所を借りたのは私なんだし・・・譲くんはゆっくり座ってて!」

そう言って、私は少し強引に2人分の食器を抱え流しへ持っていく。



「まったく、仕方のない人ですね・・・」


ふっと笑った譲くんの近づいてくる足音がしたと思ったら。





背中がふわりと温かな体温に包まれ、身動きが取れなくなる。




「ゆっ、譲くん・・・これじゃあお皿、洗えない、よ・・・」
「今日は俺がご馳走になったんですから、片付けぐらい手伝わせてください・・・ね?」

耳元で囁かれるように言われ、
くすぐったくて恥ずかしくて、思わず顔が熱くなる。

「えぇっと・・・じ、じゃあ二人で一緒に片付けしよう!うん!!」
どうしたらいいのかわからなくて、しどろもどろになりながら答えた。



でも、譲くんはなかなか手を離してくれない。

「譲、くん・・・?」




「・・・・・・夢じゃ、ないんですよね」
「えっ?」




「俺の腕の中に、先輩がいる。ずっと、ずっと好きだったあなたが・・・」




不意に私を抱きしめる腕に力がこもる。



本当は私も、こうして譲くんの腕の温かさを感じることができてうれしかった。

それは譲くんを失う運命の悲しさを、知っているから。
もう間違えないと、運命を乗り越えて譲くんと共に歩むことを選んだ私だから・・・





回された譲くんの腕に、そっと私も手を添えた。

「私、ずっといるよ。譲くんの隣にいる。もうどこへも行かないよ」







だから・・・その手を離さないでね。



いつも、いつまでも。









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えと、まずごめんなさいを言わせてください。
タイトルの「チョコレート」は一切関係ありませんでした!!
ちなみに、望美ちゃんたちの作った具体的な料理名が出てこなかったり、
料理をしている最中の記述が明らかに少ないのは、
私もまったく料理をしないからです、ハイ。
一番料理の勉強をすべきなのは私でしょうね(笑)
うぅっ、望美ちゃんの「料理の勉強しなきゃ・・・」というセリフが身に染みる・・・


―2005.2.13―



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