俺の瞳に映るのは、ずっとあなただけだったのに。 あなたの瞳に映るのは、俺ではなかった。 「・・・私ね、将臣くんについていくことにしたんだ。 ずっと考えたんだけど、でもやっぱりこの世界に残りたい」 皆の前でそう話した先輩の瞳に、迷いはなかった。 そこにあるのは、ただ自分ではない人へと向かう愛情だけ。 一途に兄さんを想う、純粋な気持ちだけ・・・ 『この世界に残ること』―――それは永遠の別れを意味することぐらい、わかっている。 俺はこの世界から去ってゆく側だから。 兄さんと先輩、そして俺のそれぞれの出発の日。 二人が俺のところへ挨拶に来た。 「譲、父さんと母さんのこと、頼んだぞ」 「譲くん・・・今まで本当にありがとう。元気でね」 「二人とも・・・健康には気をつけてください。 兄さんのことよろしくお願いしますね、先輩」 それしか言えなかった。 おそらく、兄さんの前でしか見せないであろう幸せそうな顔。 先輩のあんな笑顔を見たのは初めてだったから。 それが、今の俺には・・・ 「さようなら、望美さん・・・」 一度も呼ぶことのなかった言葉を口にしてみる。 でも、その言葉は誰に受け取られることもなく消えてゆく。 この想いはもう届かない。 いつか、この想いを忘れることなんて、できるのだろうか。 「譲殿・・・これでよろしかったのですか?」 先輩への想いに気づいていた朔が、先輩の後ろ姿を見送りながら声をかけてくる。 「俺なら、大丈夫です。 あの人の幸せな顔を見られることが、俺の幸せですから」 半分は本当、でも半分は嘘。 できることなら、俺の隣で笑っていて欲しかった。 この腕で、先輩のぬくもりを抱きしめることができたら。 でももう、あの人は行ってしまった。 俺の、手の届かない所に。 俺と同じ血を持つ、たった一人の兄さんのもとに。 「さようなら、望美さん・・・」 ======================================== |
初めて書きました、「遙か3」の創作です。 しかも、譲くん視点のシリアスとは! でも実際、一度「遙か3」で譲くんを攻略してしまうと、 他の人のイベントに出てくる譲くんからついついいろいろと考えてしまい、 一人でせつなくなってしまいます・・・。 それほど、譲くんの影響は大きいような気がしますね。 今度は譲くんのハッピーエンドな創作が書きたいですー! |