それは、ずっとずっと前のお話。









「それじゃあ、失礼しましたー」

「おぉ、日野ありがとな。遅いから気をつけて帰れよ」



誰のせいで遅くなったんだ!という怒りも込めつつ、
香穂子は職員室のドアを少し乱暴に閉める。


「ふぅ、遅くなっちゃった。帰らなきゃ・・・」


日が短いせいか、もう日は傾き翳りが見える。



・・・もうすぐ2月も終わる。
小学校も卒業式を目前に控え、毎日のように式の練習が行われていた。



「なんで私の仕事だけ多いかなぁ。先生のイジワル!」


卒業式の準備やら何やらを押し付けられて遅くなり、校舎にはもう人気がない。
日の翳りで、寒気が次第に強くなってきていた。


「うぅっ、寒〜〜い!!こんな日は早く帰るに限る、よね・・・」



しんと静まった校舎内に、ピアノの音だけがかすかに響く。


「・・・んんっ?ピアノの音?
  まだ誰か残ってるのかな・・・」

よく耳を澄ませてみれば、それは自分たち卒業生の歌う『巣立ちの歌』。
このところ毎日歌わされて、歌詞はすっかり頭に入っていた。


「♪すだち〜ゆく〜 きょうの〜わかれ〜」


無意識に口ずさみながら、香穂子の足は音楽室へと向かっていく。













(・・・って、ついつい音楽室まで来ちゃったし)

弾いているのは、『巣立ちの歌』の伴奏者だろうか。
確か男の子だったよね、と合唱の練習を思い出してみる。

(名前は知らないけど・・・
  男の子でピアノ弾けるなんて珍しいな、って思ったんだっけ)


練習の邪魔をしないように。
そっと音楽室のドアを開けて覗いてみる。




ピアノの前に座っているのは、緑の髪の男の子。




(やっぱり!あの子は伴奏の・・・)


真剣にピアノを弾く横顔は、なんだかすごく綺麗に見えて。
吸い込まれるように、見つめて続けてしまう。










すると、突然曲が止まった。

「おい、いるんだろ。・・・何か用か?」

(まずい!!ばれちゃった・・・って、なんで私こんなに見つめてたの!?)




気まずい沈黙。




「あ、あのね・・・その・・・あんまりきれいなピアノだったから・・・
  練習のじゃましちゃったならごめんなさい!!」



勢いよく頭を下げる香穂子。







・・・さらに気まずい沈黙。






「別に・・・何ものぞかなくたっていいだろ。声かけてくれれば良かったんだし」

「ご、ごめんなさい・・・」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・入れよ」

「・・・ほぇ?」

「廊下は寒いだろ?だから音楽室入れって言ったんだよ」

「うっ、うん!じゃあ、おじゃましま〜す」




とりあえず、ひどく怒られるわけじゃなさそう、と一安心しながら、
音楽室内の椅子を引っ張ってきて、ピアノの隣にちょこんと座る。




「練習、がんばってるんだね!」

「まぁな。卒業式までもうすぐなんだし、当然だろ」

「うっ・・・・・・まぁそうだけど。
  でも、ホントにきれいな音だった。
  私たちも卒業なんだな〜って、ちょっと悲しくなっちゃうくらい」

「・・・そ、そうか?って、そんなにきれいなもんでもないだろ」


言うなり、男の子はぷいっとそっぽを向いてしまった。



(・・・・・・もしかして、照れてる?
  言葉はぶっきらぼうだけど、意外と可愛い子なのかも。)



「ねぇ、もう一回聞かせてくれない?ほら、私も歌うから!ね?」

「・・・・・・・・・・・・・・・はぁ?
  仕方ない、今日はこれが最後だからな」

「ホント!?じゃあ、よろしくお願いします!」




聞き慣れた前奏。
そして、ピアノの旋律と香穂子のソプラノがひとつになる。



いつもの合唱の練習とは違う、空気。
照れくさいような、うれしいような、そんな雰囲気。





ピアノの音が、今日はほんの少し柔らかいような、気がした。


















「・・・じゃ、俺はこっちだから」

「うん。じゃあまた明日ね!
  ・・・って、その前に名前聞くの忘れてた!!
  改めて、私は1組の日野香穂子。よろしくね」


「俺は3組の・・・」







「土浦梁太郎だ。ま、よろしくな」












そして、数年後また二人は出会う。
でも、このときはまだ二人とも知らない、ずっと昔の話。









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コルダアニメが始まって以来、突然土浦くんにはまりました。
いや、以前から好きで、それが今燃え上がっていると言うべきか。
照れながら喋る姿とか、ぶっきらぼうだけど優しいところとか、
見ていて「好きだなぁ」と思います。きゅんきゅんします。
で、小学校時代の思い出を語るイベントを見ていたら、
つい出来心で書いてしまいました(←出来心って・・・)
だって・・・二人の小学校が同じだったなんて、
これはもう書いてくれと言わんばかりの設定ですよね!

ちなみに、香穂子と土浦くんのクラスはフィクションです。
しかし、実際に私は6年2組でした(←誰も聞いてません)


―2006.10.14―


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